2022年01月17日
亡き長谷川和夫先生のお話

認知症の人と家族の会顧問医・長谷川和夫さんの死去
公益社団法人認知症の人と家族の会の顧問として長年尽力してくださった長谷川和夫先生が10 月13 日亡くなられました。以前2009年11月静岡県支部(認知症コールセンター相談員研修IN静岡)の富士市にもお見えになられ、新富士駅からフィランセに向かう途中雄大な富士山を眺め感動していたことを思い出しました。その時の私がメモ書きした記事と、読売新聞の2021年11月25 日付けの新聞記事に掲載されていましたので抜粋し偲びたいと思います。
(記 石田)
認知症と共生訴えた生涯
長谷川和夫さん死去
認知症医療の第一人者で、2017年に認知症になった事を自ら公表した精神科医の長谷川和夫さんが92歳で亡くなった。医師と患者双方の立場から生涯、認知症に向き合った専門医が生前に語った言葉は、やがて高齢者の5人に1人が認知症になると見込まれる時代に生きる私たちにとって示唆に富む。言葉を振り返るとともに、老年期の診断や治療のあり方を考えてみる。
医師と患者 体験言葉に
大往生。「亡くなる1週間ほど前、病床の父に『楽しかったね-』と言って抱きしめると、父は泣き笑いの様な表情でうなずいた。認知症なんて関係ない、言葉はなくても心は通じていると思いました」
10月13日に亡くなった長谷川さんについて、娘の南高まりさんはそう話す。亡くなる3週間前に体調を崩して入院し、肺炎や低ナトリウム血症等に悩まされたが、最後は苦しまず、大往生だったという。
東京慈恵医大を卒業し米国留学後、1960年代後半から認知症の研究を始めた。当時は「痴呆」と呼ばれ、自宅や病院での隔離や身体拘束が当たり前の時代。診断基準が必要だと、74年に認知機能検査「長谷川式簡易知能評価スケール」を公表した。
生活の障害や偏見に苦しむ本人や家族の助けになればと、聖マリアンナ医大病院で外来診療の延長としてデイケア実施。2004年には「あほう」など侮蔑的な意味を持つ「痴呆」用語を「認知症」変える国の検討会委員となり、議論を先導した。「パーソン・センタードケア(その人中心のケア)という理念の普及にも貢献した。
認知症と公表してから2年後、東京都内の自宅周辺を散歩、「この世にいるうちは人様のお役に立ちたい」と語っていた。
88歳で自らが認知症『嗜銀(しぎん)顆粒性認知症』になったことを公表。最近、本人による公表が相次ぐ中、認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子副センター長は長谷川さんの公表は次の二つの点で意義があると語る。
一つは、専門医でも認知症になることは避けられず、生きていく上で誰もがなり得ることを堂々と示した点。もう一つは、専門医でもなってみなければわからない未知の部分があると伝えた点。「だからこそ本人が体験を語る事は意義がある。それを基に共に考え、共生社会を築く大切さを身をもって伝えてくれた」と永田さんは指摘する。
町づくり
長谷川さんが「当事者になってわかった」と語ったことの一つに「連続している」という言葉がある。「認知症になったからといって突然、人が変わるわけではない。自分が住んでいる世界は昔も今も連続している」認知症は「固定したものではない」という言葉もよく口にした。
「これほど良くなったり悪くなったりのグラデーション(濃淡)あるとは考えてもみなかった。ひとたび認知症になったら、もう終わりだとは思わないでほしい。周囲も、何もわからなくなった人間として置き去りにしないでほしい」公表の理由については「より良く生き、死んでいくため」と語っていた。
和歌山県御坊市や等級と世田谷区など、最近は当事者の尊厳や希望を尊重する条例を作る自治体が増えている。永田さんは「長谷川先生は、最晩年は町づくりが一番重要だと説いて全国を回られた。先生のまいた種が着実の各地で芽を出している」と話す。
高齢者の医療見直しの時
国の研究班の推計によると、認知症高齢者は現在600万人ほどで、25年には65歳以上の5人に1人あたる約700万に増える見込み。また、認知症にかかる医療や介護などの社会的コストは、30年には21兆円を越えるとの推計もある。
アルツハイマー型認知症をめぐっては、今ある対症療法的な薬と異なり、根本治療につながる可能性のある薬(「アデュカヌマブ」)承認結果が年内あるいは来年早々にでも出るのではと注目されている。認知症を引き起こす原因物質を除去し、病状の進行抑制ができれば画期的だが、すでに病状が進んだ人には対象外となる。
高齢化や長寿化で認知症が急増する中、東京都立松沢病院の斉藤正彦名誉院長は、「80代や90代など、超高齢者の医療を見直すべき時期に来ているのではないか」と提案する。もちろん個々の状態に応じて判断すべきだが、50代や60代の若年性認知症と違い、認知症機能の低下が正常の加齢の範囲から大きく外れるわけではない超高齢者に認知症の薬をたくさん出すなどの風潮には疑問を感じると言う。
長谷川さんは生前、「老化に伴う認知症はありのままとして受け止め、自分らしく生きる事が大切ではないか」と語っていた。さらなる長寿社会の到来を前に、考えるべき事は多そうだ。
長谷川和夫先生の医学的知識について
(静岡県認知症の人と家族の会 認知症コールセンター相談員研修会の一部より)
長生きすると社会に起こってくる状態が変化してきます。長寿社会、80歳を超えますと認知症が増えてきます。長生きするということはいいことです。しかし、介護を要する方が増えてきます。認知症になると判断力が低下し、読み書き、ソロバンができなくなります。認識して知る認知機能は人間として高次のもので、動物にはありません。コンピューターが故障すると電車が止まったり、飛行機が飛ばなくなります。それには必ず原因があります。
アルツハイマー型認知症は認知症の中で7割を占めています。今の民主党みたいなもの(笑い)。アルツハイマー病は脳の中のベーター蛋白が増加し、ネットワークが壊れてしまいます。認知症には交通事故による頭部外傷、甲状腺機能低下症、酸素が脳へいかなくなる脳血管性認知症等があります。脳卒中麻痺、舌がもつれて呂律が回らなくなるのは脳血管性認知症の後遺症の1つで、予防が可能となります。
アルツハイマー病は後遺症ではないベーター蛋白の増加によるもので進行性が特徴です。ハンチントン病、ピック病、レビー小体病、進行性というのが厄介です。アルツハイマーというドイツの医学者が老人斑というしみのようなものを発見しました。ベーター蛋白病といったほうがほんとうはいいんですよね。(笑い)いずれにしても進行していきます。診断する特徴はいつとはなしに起こっててくる物忘れと、言葉のやりとりや料理を順序だだててできなくなります。
認知機能という物忘れだけの状態を“MCI”軽度認知症といいます。MCIの人をなるべく発見して、早めに予防体制を取ることが必要です。回りも本人も自覚しており、心理テストも異常なし。その人達を5年くらい観察していると、半分くらいアルツハイマー病です。この1年は著しい。MRI異常なし。いたづらにMCIと診断すると人権問題になります。
1999年アリセプトが使われはじめて10年になります。アセチルコリン分解を抑制する薬でアセチルコリンは記憶を担当する神経伝達物質で、そんなに分解することはやめてくれ!といっている。本当はベーター蛋白を減らす薬が必要です。
アルツハイマー病の進行を止めるアリセプト。進行を止めるのがアルツハイマー病の本質です。自然現象、子供の発育、年をとるのを止める薬。アルツハイマー病は老いと背中合わせです。老化の進行を抑制する、薬の効果を限定する薬。自然現象を止める薬はアリセプト。何の変化もなく非常にせつないため、試しに中止してみると、ガクッと進行する。今のところ唯一適応する薬で副作用が少なく胃腸障害位で重篤な副作用はありません。
若年認知症は64歳以下、40代50代の人たちがアルツハイマー病、脳血管性認知症、ピック病等にかかると大変、経済的に大変です。就労の道が問題となります。家族の奥様はパートに行くことができません。若年性認知症専門のデイサービス、グループホームがありません。物忘れがひどいだけで高齢者の人たちと一緒にデイサービスで過ごせない。もし私が認知症になったらNHKに報道するか、誰が長谷川式認知症を僕にするか(笑い)宜しくお願いします。
若い人が認知機能障害になると周りの人は、奇異な感じがする。厚労省は緊急プロジェクトを立ち上げました。厚労省のホームページをご覧下さい。若年性性認知症コールセンター TEL 0800-1000-2707
若年認知症は数が少なく10万人に対して4000人位で、専門のデイサービスを創ったとしても、大きな町でも人が集まらないし、送迎が難しい。実際問題として来てもらうしかなく対応は難しい。電話相談が突破口となりました。
ピック病の対応は難しい。アルツハイマー病は側頭葉・海馬が侵され、もの忘れが最初に起こってきます。ピックは前頭葉から起こってきます。前頭葉は指揮者のような総合判断を行うところです。抑制が効かなくなり、人と会話していても衝動的に立ちあがってしまいます。スーパーのレジでは、人が見ているのに小銭を持っていってしまい、直ちに拘束されますが、多動でじっとしていません。また、決まった道を散歩します。10時になると決まったコースを散歩し毎日それをやります。デイサービスへいったん行くとちゃんと待っています。決まった時間帯できっちりできます。日曜日も待っています。多動の他は何もしない。トントンと窓際に座りながら手すりをたたいています。手すりはへこんでしまっています。常同行為といいます。抗精神薬を使わざるを得ません。
レビー小体病もこの頃注目されています。パーキンソン症状、幻覚があります。筋肉が硬くなり顔の表情も硬く表情に乏しい。歩行障害、幻視体験(ベッドの下に水が流れてきた)、認知症が起こってきます。レビー小体型認知症は小坂憲司氏(横浜市立大学名誉教授)が発見し、世界的に有名です。国際的に認められ、高い評価が得られています。アリセプトが効果があります。
甲状腺機能低下障害や糖尿病にかかるとアルツハイマー病になりやすい。医者に行くと心理テスト(認知症を見分けるためのテスト)が行われます。長谷川式認知症スケール(HDSR)MMSE(ミニメンタルステート)でどの位認知機能が低下しているかを診ます。認知症と分かったら二段がまえで診ます。画像診断(CT、MRI)でなるべく早い時期に正確に診立てをし早く対応することが必要です。ここは安心して暮らせるいいケアーが大切!
認知症には、中核症状と周辺症状があります。認知症があるために、現実の暮らしの中で間違い行動があり、周りについていけなくなります。アルツハイマー病と宣告されたら、憂うつになりうつ状態となります。うつ状態が重なると注意力が散漫となり、不安、イライラ、暴言・怒鳴るなど出現します。これらの行動を周りの方は問題行動(BPSD)ととらえてしまいます。本人は問題行動と思っていません。周りの仕方が不十分で間違った行動をするとかえってて混乱します。
いいケアをすると問題行動が少なくなります。私は精神科医ですのでそういうことはすごく関心があります。本人の視点から見てこの世界がどう見えるか!本人中心のケアーが必要になってきます。パーソンセンタードケアが重要です。本人がどう思っているか理解をして取り組むケアです。口で言うことはやさしいが中々難しい。
これからお話することは何回も家族の会で話しています。僕ももちろん話したことは覚えていますよ(笑い)家内の父が80歳のときアルツハイマー病になりまして86歳で肺炎で亡くなりました。20数年前、聖マリアンナ病院で精神科の教授をしていた頃、東京都板橋のでショートや医師の往診を利用していました。ある晩のこと、一緒に食事をしていて「困ったなー」どうしたの?「皆さんはどちらさんでしょう」と、私はそのときこれは相貌失認だ、人の顔が分からなくなりそれがうまくいかなくなりネットワークが壊れた、これは相貌失認でアルツハイマーの第3期だ。みなシーンとなり、家内は私をにらむ様に観ている。あせっていたとき、高3の娘が「私たちのことが分からないと言っているけど、おじいちゃんじゃないの」「皆さんは私のことを知っているのですか、安心した」と、こういうことを言えばよかったと思いました。『知っているから大丈夫、あなたは分からなくてもいいよ。こっちが知っているから』、これがパーソンセンタードケアというのかなーと思います。
私の分からなくなったことをそのまま受け入れてしまうパーソンセンタード方式。こちらの都合でやることと違うのです。認知症の人が家に帰りたい!。実家に帰りたい!。そういう体験をしているわけですから、「こっちへいらっしゃい」はだめです。その人の物語を理解して対応しましょう。
少人数の患者さんを今診察しています。前の大学病院と今の診療から、ちょっと変わってきました。奥が深くて富士山のふもとに着いたようです。認知症の予防はベーター蛋白を起こさないようにすることです。予防法はありません。自分の認知機能を高めて一定以上に保つことが大切です。レベルが高ければいいですね。
高血圧、高脂血欠症、糖尿病、肥満(メタボ)が脳血管性認知症の原因でもあります。そのための食生活に注意し、脂っこいものは控えましょう。運動不足をしていると肥満、高血圧が出てきます。ジョギング、水泳、テニス、歩くことがとても大切です。歩幅を一歩半としかかとからつくように歩きましょう。胸を張って少し前を見て、手を振って毎日ではなくても週に3日くらいは続けましょう。
タバコはいけません。ヘビースモーカーの方タバコを吸う方はエビデンスがあって、オランダのアムステルダムでの調査では認知症になる確率は1.9倍。アメリカ、ブルックリンも1.9倍、中国、タイはヘビースモーカーの方は1.8倍と高いデーターが出ています。
引きこもり、うつ状態を治療し運動不足を解消し、一日一回はは外出しましょう。魚は豊富に摂りましょう。ゲームは認知予防にいいです。囲碁、将棋、マージャン、トランプなどは良いです。読み書きとして日記をつけることは良い。私は1987年から日記をつけています。ここ15〜16年はびっしり書いています。夜寝る前に毎日書くことにし、回想法にしている。家にいるときはごろごろしていて会うのは家内だけ(笑い)である。「聞いているの?」と言われる。努めて、何か観察します。朝すずめがこちらに向けて話しかけているようにと思う。10行くらい書きます。昨日のこと、おとといのこと、手帳を見て参考にして書くようにこころがけています。以上で医学的知識のお話を終わります。
Posted by 2人3脚 at 16:57│Comments(0)
│石田 ホーム長のひとり言